共存 No,11 2003年5月号
2003.05.21
共存 No,11 2003年5月 著者:村石孝枝 写真:オホーツクドットコム

共存 No,11 2003年5月号


 知床では野生の鹿が増えて その被害も広がっている。10年程前までは 鹿は森に住むもので たまたま 道路際に出てきたりしたら 地元の人でも 「カメラ!カメラ!」と あわててシャッターを切ったりしていた。

 それが どうでしょう!!

 この頃では いたるところに 群がっている立派な角をつけた 雄鹿が悠々と郵便局の前を横断している。知床ならではの風景に観光客の方は 大喜びだが 地元民の悩みは深い。

 花の種を蒔けば 新芽のうちに食べられてしまうし 家庭菜園のネギは根こそぎとられてしまう。そして 家の周りに植えた 一位の木はぐるりと皮をはぎ取られて ほとんど枯れてしまった。

 我が家の庭の隅っこに白樺の木が 5,6本ある。大雨が降るとこの木の下で鹿の親子が雨宿りしながら 子鹿はおっぱいを飲んでいる。この親子は 子鹿がまだ ほんのよちよち歩きの頃から現れ 子鹿の成長を家族で見つづけていた。

 遠方から来た友人に「この鹿うちで飼ってるの」と冗談で言うと「ふ~ん 大変だねえ さすが知床だ!」と真剣に返してくる。最初のうちは「かわいいね あの濡れたような ひとみが草食動物特有でやさしそうだね」など寛大な気持ちでいた。

 ところが ある日 私が仕事から帰ってみると 丹精こめて育てたバラのつぼみが無くなっている。明日にでも咲きそうだった 黄色いバラのつぼみ。

 このバラは特別なのだ。「結婚20周年に主人がくれた花束の中の1本を挿し木にしたら根付いて はじめての花をつけた」というドラマチックなものなのだ。

 ハッと気づいて斜め後ろを見ると あの親子の傍らに無残に バラの葉が落ちている。「やられた」と思った瞬間に自分の中で何かが音を立てた。もうこうなると草食であることや つぶらなひとみも利点にはならない。

共存 No,11 2003年5月号

「なんで人が大切に育てたもの食べるのよ。つぼみが甘いからってそこだけ食べることないでしょ!エサくらい自分で捜しなさい!!熊だって キツネだって みんな自立しているのよ。草食なんて上品ぶっているからダメなの。雑食になりなさい 雑食に」

 もうわけのわからない メチャメチャなことを言ってしまう。たかがバラ。されどバラなのだ。

 この時の花を亡くした喪失感は 今も私の心のトラウマになって時々夢に出てくる。

 だけど こんなふうにしてしまったのは人間だ。それは もうこの知床に住んでいる人は みんなわかっていると思う。

 開発が進み 以前は熊や鹿の「けもの道」だった場所に建物や道路ができて 行き場を無くした動物たちは その辺をウロウロしはじめる。

観光客に エサを与えられたりすると 味をしめて もう森へは帰らず 常に人目に触れるようになる。そうすると今度は人間が「危険」を感じ 最終的には駆除するという悲しい結末になる。

 だから どうしたらいい という決定的な解決策はないけれど。よく言われているように自分達も この知床の自然の中に生かされているという 謙虚な気持ちを持つことは大切だと思う。謙虚さとは 相手を思う気持ちに通じるから けっして けっして鹿に「雑食になりなさい」などと言っても いけないし みじんも思ってもいけないのだ。



著者:知床四季のエッセイ 村石孝枝(アトリエ夢民)
写真:オホーツクドットコム
1,2枚目:エゾシカ知床ウトロ 4月

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