森の掟 No,26 2004年11月号
2004.11.21
森の掟 No,26 2004年11月号 知床四季のエッセイ 著者:村石孝枝 写真:オホーツクドットコム

森の掟 No,26 2004年11月号


この頃 熊を見たという声を ひんぱんに聞く。冬眠前に脂の乗った鮭をお腹いっぱい食べて 長い冬を乗り切ろうとするのは 人間も動物も同じだ。

だからこの時期 産卵の為に 川に上る鮭を狩りしている熊をあっちこっちの川で見かける。

よく木彫りの熊の 代表的なポーズに 鮭を口にくわえている姿があるがそんな場面を「生」で見られるのも 知床ならではの風景だ。

私の仕事仲間には 鹿角を加工して 作品を作っている職人さんがいる。その人の熊の話はすごい!

鹿角職人は 角が材料なので この角拾いがある意味 仕事の半分を占めている。

よく奈良公園の鹿が 角を切られている映像を テレビなどで見かけるがあれは角が観光客に あぶないという理由で切っている。

本来は 1年に1度 春先に自然に角は落ちる。この鹿角拾いに行くと かなりの確立で熊に出会うそうだ。

雄鹿が角を落とすということは やはり武器をなくすようなものだから人目につかない 山の奥深いところで落とす。

森の掟 No,26 2004年11月号 知床四季のエッセイ 著者:村石孝枝 写真:オホーツクドットコム

実は そんな場所は 熊の生活圏なので 本来人間は足を踏み入れられないようなところだという。

そこでは 熊を見かけるのは普通だが けっして目を合わせてはいけないのだそうだ。

見つめ合うという行動は 熊にとっては攻撃を意味するからだ。

また 熊は食べきれない程の獲物があると 土の中に埋めておく習性があるらしい。

その獲物が 雄鹿だった場合は 鹿の胴体は 土の中に埋まっていて見えないが角は地上に出ているので 一見角だけが落ちているように見える。

これを 角拾いの人が 気づかずに近づくと とても危険だという。
熊は 大切な自分の食料を横取りせれると見て 仕返しをしてくるそうだ。

突然に現れて脅かしたり 地面が割れるのではないかと 思う程の地響きで近づいてきて 歯をガチガチと鳴らすというから オソロシイ。

そんな時 彼がとる行動はひたすらに

「私は何もしません! ただ仕事の為に鹿角を拾いに来ただけです。
あなたの領域をけっして荒らしたりしません。」と

熊に強いメッセージを送るそうだ。

もちろん けっして目を合わせたりしない。

そうして静かに じっと やり過ごすと 熊は急に足音を立てずに

すーと森に消えるというから驚きだ。

そして次に そこで同じ熊に合っても 今度は見て見ないふりをして 大目に見てくれるというのだから これはもう 人間関係と同じだ。

「まるで童話だね!」というと 「だけど熊は猛獣だから 何があってもおかしくないよ。

どんな時でも 謙虚な気持ちを持って 山に入らないと とんでもないことになるよ。
子供の頃から山には よく行くけど 年々その気持ちは強くなってきたなあ。」

単なる仕事仲間の彼が 今日はとても偉く見えた。



著者:知床四季のエッセイ 村石孝枝(アトリエ夢民)
写真:オホーツクドットコム
1,2枚目:ヒグマ知床10月

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